「学生マジックの特徴とはなんだろうか?」
特徴を説明する前に、そもそも学生マジックの定義をしなければなりません。
ステージマジシャンには3つに分類されます。
プロマジシャン、社会人の(もしくはそれを引退した)マジシャン、「学生マジシャン」です。
手品の世界はこれらの線引きが難しいという一面もありますが、今回は以下のようにわけ、「学生マジック」を捉えていこうと思います。
一つ目は、プロマジシャンです。
手品活動(ショーやコンテストからレクチャーまで含む)における収入を生活の軸としているもののことを指します。
その他にアマチュア(アマ)があります。
アマチュアは二つに分けて考えます。
それが社会人と学生です。
これらは両方ともサークル等の団体において活動するものとして扱います。
以上のプロマジシャンに加えたアマチュアマジシャンの二つ、社会人と学生の三つの分類した上で、学生マジシャンの特徴について紹介していきたいと思います。
演じ方
学生マジックの特徴の一つと考えられるのが演じ方です。
その中でも「アピール」という文化は非常に特徴的です。
アピール
学生マジックのアピールの特徴は無意味に止まる(固まる)、振り向いて必要以上にドヤ顔をする、執拗なまでの三方確認の三つが挙げられます。
アピールの基本的な意図は手品の(不思議な)現象が起こった時に拍手をもらうというところにあります。
本質的には手品の不思議さに対して観客は拍手をするものであると考えられますが、学生マジックの場合、圧倒的技術の欠如、表現力の欠如等により、現象それ自体において拍手をしづらいという状況が発生します。
そこでアピールをすることで無理やり観客に拍手を求める、というのが学生マジックの手法です。
また、このアピールを曲に合わせて行うという手法もあり、これを曲ピタと言います。
しかし、このアピールにより、手品本来の良さが失われていると考えるよりも、むしろ学生マジックのノリや空気感が相乗効果的に助長されていると考えられます。
もちろん、通常のマジックショーにおける文脈であれば、観客はとことんまで冷めて、演者から心が離れていくことは間違いないです。
立ち方
また、「アピール」だけでなく立ち方にも特徴があります。
本来は舞台上できれいに見えるようなステージ立ちという類のものが、他の舞台芸術同様行われていたと考えられますが、学生マジックの長い歴史と文脈、つまりは学生のノリによってそれがサークル内において助長されてきました。
演じ方に関して特に関東の学生では極端な例が多く特徴が顕著にみられますが、各地のサークルや手品教室、手品団体によってトレンドというものは存在します。
演じ方だけで学生マジックを文化としてとらえることは難しいという意見もあり、それは正しい意見でもあります。
一方、そこに学生マジックの特徴を見出している手品文化の構成員は多くおり、その数も見過ごせないです。
学生マジックを文化としてとらえるならばこの演じ方も重要な要素の一つとなりえると考えられます。
観客層
学生マジックは基本的に観客が参加することにより成り立ちます。
学生同士がお互いの舞台を観に行くという文化が習慣的に行われています。
ある時は演者だった人物が、その時観に来てくれた仲間の舞台を観に行くといったように、観客も演者となりうるのです。
その結果、拍手だけでなく「コール」という文化が発生しました。
コールには拍手、歓声(時には奇声)、名前を呼ぶ、おつかれ、お願いします、突っ込み等のさまざまなバリエーションがあります。
前述のアピールに対して行われるのが、このコールです。
コールをして観客自らが参加するというスタイルをとる学生マジックは、アピールなしには発生しないものです。
コールにもサークルにより特徴があります。
コール
ここで、コールの種類を説明したいと思います。
拍手は最も一般的に行われるもので、コールに含まれないと考えられることも多いです。
学生マジックの中にいる者以外も行うので比較的効果が高いです。
歓声(奇声)は、お祭り等でなされるのを観る機会もありますが、一般的な舞台芸術ではあまり好まれないらしく、学生マジックのアンケートには、主に高齢者がこの歓声(奇声)を非難するコメントが多々見られます。
もっとも、本人たちはそれを好んでいる場合が多いです。
名前を呼ぶ、という行為は主に演技と演技の合間の暗転中(幕間)に次の演者、もしくは演技が終わった演者の名前を叫ぶ行為です。
演技中のアピール時にもこの行為は行われることがあります。
暗転中(幕間)に行われるこの行為はめったに嫌われることがないです。
おつかれ、は名前と同様に演技終了の暗転時に多くおこなわれますが、演技中に暗転する演者に対し暗転したらこの掛け声が発せられることもあります。
これは学生マジックにおいて暗転(幕間)は演者と演者のつなぎに用いられるものという慣例があるからだと考えられます。
この名前コールには意味のないものもあります。
しばしば前後の演者の名前ではない名前が飛び交うことがあります。
これに実質的な意味はないが、サークル員の名前であったり、大学奇術連盟で有名な人物の名前であったりします。
ただ、これは暗転(幕間)時間が長い時に間を埋めるために行われることが多く、暗転(幕間)時間を短く感じさせる効果があります。
お願いします、は演技の中の大技の前に発せられる掛け声です。
少なくない数の観客は演者の手順を知っているため、この掛け声が可能となります。
ただ、本質的に手品は次の現象が不明であることが面白さの一つポイントとなっているため、この、お願いします、は一部では好まれていません。
演者の演技に対して突っ込みがいれられることがあります。
これは演者の人柄を観客が知っているという学生マジックの特殊な状況であるから可能であると考えられます。
コールはこのほかにも、下ネタや意味のないことばが発せられますが、これらは全て観客たちが盛り上がり、演者を盛り上げる施策です。
種目について
「学生マジック」の大きな特徴の一つとして「種目」が挙げられます。
2015年度現在、四つ玉、カード、ウォンド、シンブル、チップ、シガレット、ディスク、ワイン、シルク、ネックレス、フェザー、フラワー(毛花)、ローズ(造花のバラ)、札(ビル)、メリケンハット、パラソル、ゾンビボール、ダンシングケーン、リング、ペイント、扇子、和妻、鳩、マスク、ロープ、以上の25の種目が存在します。
またこのほかにも、コイン、タンバリン、ダイス、ダンシングシルク、イリュージョン(ダイマも同義のものとして扱う)の5つの種目が認知されています。
これらのうちイリュージョン以外の4つの種目は演じる者がいなくなった、失われた種目とされています。
演じる者がいなくなった理由はいくつか挙げられるが、大きくは時代の変化であると考えます。
上位互換と考えられる種目の登場やその時代の若者に不向きな演技方法しかできないといったところです。
学生マジックではスライハンド種目が人気となる傾向にありますが、これらはアイテムが単純なために時代の波に合わせて変化できるのが特徴です。
失われた種目の例外としてイリュージョン(ダイマ)があります。
これは保存や作成などにコストが大きくかかるため、その時の各サークルの状況により変化します。
失われた種目があるのと同じように、近年登場した種目もあります。
その代表例がディスクです。
CDの登場により新たな種目ができたのです。
これからも世の中の技術革新とともに新たな種目が出現する可能性はあります。
以上が手品の基本的な種目ですが、学生マジックの発表会ではジャグリングやパントマイムなど手品以外の種目も演じられています。
ジャグリングに関しては使用する道具で種目を呼び分けることも行われています。
これら手品以外の種目を演じる者は手品以外のサークルにおいて芸を身につけることも多いです。
これらの種目に加えてアラカルトという種目も存在します。
特に近年増加しているのがこの種目です。
本来この名前は二つ以上の種目を組み合わせたものを指す種目名でしたが、近年の手品道具の多様性により従来の種目に当てはまらないものをアラカルトと呼ぶことも多くなってきています。
また、同様の意味合いでアラカルトではなくプロダクションと呼ぶ例もいくつか見受けられます。
師弟制度について
種目に基づき、多くの学生マジックのサークルは師弟制度をとっています。
これは同じ、もしくは似た種目を経験した先輩が舞台に立つ後輩の面倒を見るという制度です。
種目と合わせて運用される師弟制度により、学生マジックは1サークルで舞台を運営するという極めてハードルの高いことを成し遂げやすくしているのです。
学生マジックの発表会は演技の手順がゼロの状態からおおよそ3か月で舞台本番を迎えることになります。
舞台に上がるためには、手品としての基礎技術から演出まですべてを考えなくてはならないです。
このきわめて短い期間で舞台を作り上げるというところが、学生マジックの特異な点の一つとして挙げられます。
そこで、学生マジックは「種目」という手品道具の制限を設けることにより、練習をしやすくしているのです。
また、師匠はその種目を選んだ弟子と同じ種目、または近い種目を前年度に経験しているためノウハウの蓄積が多少あるため、指導しやすくなっています。
この制度のおかげで、学生マジックは何十年もの間舞台を運営し、時には世界に通用するマジシャンを輩出することさえ可能にしてきたのです。
近年の学生マジック界の発達による注意点
近年学生マジックの文化的特性が薄れつつあります。
特に演じ方に関して、以前とは異なる側面が現れています。
大味であった学生マジックの表現は、近年、繊細になりつつあり、より観客のことを意識するようになってきています。
この理由に関してはいくつか考えられますが、大きな転換点として挙げられるのは2009のFISM北京大会です。
この大会では学生マジックで育った東京大学奇術愛好会出身の加藤陽氏がマニピュレーション部門で一位を受賞しました。
彼の演目はウォンドシンブル(ウォンブル)といって代表的な学生マジックの演目であり、特に学生マジックの表現方法を利用しやすい演目でした。
もちろん彼も現役の学部生の時には学生らしい演出で、どや顔や大味なポーズを決めていました。
しかし、世界大会に臨むにあたり丁寧できれいな演技、受け入れられる表現方法を考え、体得しました。
これが世界的に評価されたことで、学生マジック会は大きな衝撃を受けることになったのです。
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